日々の、泡。

日々、思うこと、感じたこと。つれづれと、あわあわと。

湯気

 

恋をしているかもしれない。

 

そんな予感は、

ふつふつと胸の内をあたためて

いつの間にか湧き上がって

ピーピー言いながら、

恋の湯気を撒き散らす。

 

息もつまるほどに

熱された湯気が

わたしの鼻から目から

あらゆる隙間から入り込んで

あなた一色に、染まる。

くらげのうた

 

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今でも思い出す光景がある。

あれはきっと5年前。

 

あの頃、わたしは兄と妹と3人で、西荻窪の古いマンションに住んでいた。

その頃お付き合いをしていた男性は、ひょろりと細長く、あばら骨が浮き出ていて、さらさらと瞳にかかる前髪が薄茶色で、とても中性的な人だった。

そしてその見た目と違わず、ひどく繊細な人だった。

 

お付き合いをしていた期間はわずか3ヶ月ほど。齢25を過ぎた男女が一体何をやっているのだと情けなくなるが、当時の自分は彼に心底惚けていて、それゆえ彼が離れてしまうことがとても恐怖で、思っていることを何も口に出せなくなり、そのせいで2人の関係はどんどん駄目になっていった。

 

彼は、絵を描き、音楽を奏で、映像を生む人だった。

彼の手から生み出される柔らかくもどこか影のある作品に心から惹かれていたわたしは、自分も何か特別な才能のある人間にならなければ捨てられてしまうのではと常に不安で、次第に彼の顔色ばかり伺うようになっていた。

そんなわたしに彼は苛立ちを隠さなくなっていたし、別れは必然だったのだろうと今だから思う。

 

そんな彼と、付き合っていた頃。

西荻窪の自室で過ごしていた時の話。

確かあれはきっと初夏のこと。前の夜から彼はわたしの部屋に泊まり、昼前までうとうとと窓を開けてまどろんでいた。

彼は片膝を立てて、壁に背中を預けながら、持ってきていたアコースティックギターをぽろぽろと奏でていた。

まどろむわたしの頭上から、小さな声でふんふんと鼻歌を歌う彼の声と、淡い光がレースのカーテンごしに風とともにふわふわゆらゆらと入ってきて、夢うつつのわたしは、まどろみの中で、くらげになった。

 

彼と別れて5年経った今も、くらげになった朝を思い出す。

「この海だったら、悪い夢など」とくらげなりに感じたあの朝が、あわあわと思い出されるのだ。

あれ以来、わたしはくらげになっていない。

 

日々の、泡。

 

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思っていることや、感じていること。

 

言葉にできないくらいの夕焼けや朝焼けを見た時の気持ちも、なんだかうまく言葉にできなくて、「まぁいっか。」と諦めて飲み込んでしまうことが多くなった。

それじゃあだめだ。

 

「自分の感受性くらい、自分で守れ馬鹿者よ」だ。

 

あわあわと浮かんでは消えて、自分でもなかなかつかめなくて、気がついたときには弾けて気の抜けたサイダーのようになってしまっているわたしの感受性。

せめて少しでもとどめておけたら、なんて。

そんなこと、思っています。